何を目指したいか?

先日、友人から自分が将来何を目指したいのか分からないという相談を受けたが、僕はそんなに将来について不安を持っていない。今の仕事が上手く行っているので、それが自信に繋がっているからかもしれない。しかし、社外に出ても通用するほど仕事の実力があるとは到底思えない。今は限られた範囲内でたまたま上手く力が発揮できているだけだ。
「決して自分が出来る人間だと思ってはいけない。」
という大学時代の恩師に言われた言葉を思い出す。自分が出来る人間だと思えば、そこで成長が止まってしまう。逆にそう思わない限り、いつまでも成長することができる。

 
恥ずかしい話今思えば、やはり僕は自分が出来る人間だと思っていた。そんなに露骨に表れていたとは思えないが、やはり心のどこかではそう思っていた。卒業前に先生に言われて初めて自分がそう思っていたことを自覚したのだが、言われる前と言われた後では物事へのかかわり方が変わってきた。まず謙虚になった。それに以前より周りの人間を尊敬するようになり、自分にないものを積極的に受け入れるようになった。それが仕事のあり方(実験計画の立て方や問題解決のアプローチなど)にも良い影響を与えていると思う。もっと昔からこうであったなら・・・と思ったりもするが、それは叶うべくもない。


ところでさっき映画を観ていて、そういえば僕は高校時代は映画監督になりたいと思っていたことを思い出した。しかし、いつの間にか生命科学の世界に魅せられるようになり、自然と生命科学の研究者になりたいと思うようになっていった。それが今ではビジネスの世界で生きていきたいと思うようになっている。
結局、自分が目指したものはその時その時の経験、挫折、恋愛、その時代の政治・経済あらゆる事象の影響を受けて変わってしまう。どう変わるかなんて予想できないけど、いつでも今目指しているものが一番自分にフィットしているように思う。きっとこれからも目指すものは変わっていくけど、それでいい。海にたゆたうクラゲのようなものだ。


僕は大学院で研究はもういいやと思い、もっとビジネスを体験したいと配属先は生産の現場である工場を志願した。しかし、配属先は研究所だった。僕は会社経営者になりたいと思っていたから、まず最初は生産の現場を知るために工場がいいと思っていた。しかし、研究所配属になってしまったからには、研究をやっていても実践的にビジネスにつながるようなキャリアパスを考えることにした。

企業の研究所に来て分かったのは、やはり企業である以上利益を追求しなければならないので、研究所と言えどもほとんどの部署は多かれ少なかれ開発に関わっている。本当に基礎研究だけをやっているところは少ない。研究所の同期はみんな一様にもっと基礎研究をやらせろよと息巻いているが、はたしてそんなに結果が出せるつもりなのだろうか?基礎研究と言えば聞こえはいいが、基礎研究は結果が会社の利益として見えにくいものだ。たしかに基礎研究をおろそかにしては将来の発展はないと思うが、最初からそのような部署に配属されてしまってはビジネスマンとして必要な計数感覚を養えないのではないか?まずは結果が数字に表れる開発で利益を出してから、基礎研究やりたいと言えよと言いたい。


僕はもう純然たる研究者になりたいとは思っていないし、開発をやるなら別に博士号はいらないと思う。しかし、自社を超えて仕事をするとき、または研究・開発の枠を出て経営に携わるとき、技術を知るものとして博士号程度の知識があるのは武器になる。そういう意味で、研究者として生きるために博士号を取得するのではなく、技術を知る人間が会社経営をするために取得しておきたいと考えるようになった。
大体、研究所に来るような人間で経営をやりたいと考えている者はほとんどいない。そこが差別化につながる。今はチャンスだと思うので、しっかりそのチャンスをものにしていきたい。