(その1)因果と相関

因果関係とは何であろうか?相関関係とは何であろうか?


福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」の中で、遺伝子の正体がDNAであることを証明するために、「DNAのふるまい(behavior)」を調べるという非常に美しい実験の話が出てくる。


病原性を持たないR型肺炎双球菌に病原性をもつS型菌のDNAを注入すると、R型からS型への形質転換が起こるという現象がある。当時、誰も遺伝子の正体はDNAであるとは思っていなかったため、この形質転換はDNAによるものではなく、DNA抽出物に付随する少量のコンタミネーション(汚染)によるものだという批判があった。


ここでDNAのふるまいを調べるとは、DNAの純度を何段階かに振ることをいう。もし、DNAが遺伝子の正体であるならば、純度の高いDNAを注入するほど、形質転換率は高くなる。もし、形質転換がコンタミによるものであるならば、DNAの純度が高くなるほど、逆に形質転換率は低くなるであろう。


実際には生物は気まぐれであるため、予想したような結果の定量は困難であった。しかし、僕はこの考え方に深く感動した。DNAのふるまいのイメージが、グラフとして目に浮かんだのだ。


この「生物と無生物のあいだ」を読んでいて、「はて?因果と相関の違いはなんぞや?」とふと思った。
風が吹けば桶屋が儲かる」は因果関係?それとも相関関係?
自分自身、因果と相関の違いをよく理解していなかったので整理してみた。


【結論】
 ・ 因果関係は相関関係の十分条件である(因果関係は相関関係に含まれる)。
 ・ 2つの事象の間に相関関係があるかどうかを示すのは比較的易しい
 ・ 2つの事象の間の因果関係があるかどうかを示すのは難しい
 ・ 相関関係にあることがわかっていても、2つの事象のうち、どちらが「原因」でどちらが「結果」であるのかを示すのが困難なときがある。


以下に、どのようにして考えて結論に至ったかを示す。


■「因果」と「相関」の関係


因果とは「原因」があって「結果」を生ずることをいう。このとき、

命題:因果関係があれば、相関関係にある(A → B)
A:因果関係がある
B:相関関係にある


この命題は真である。明らかに因果関係があるとき、原因と結果の間には必然的に相関が生まれる。

しかし、この裏命題「因果関係がなければ、相関関係はない(notA → notB)」は必ずしも真ではない。なぜなら、擬似相関の可能性があるからだ。擬似相関とは、2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのように推測されることをいう。


さて、上記の例のように命題の真偽と裏命題の真偽は必ずしもは一致しないが、対偶の真偽とは一致することが知られている。つまり、「因果関係があれば、相関関係にある(A → B)」が真ならば、その対偶「相関関係がなければ、因果関係にない(notB → notA)」もまた真である。命題A→Bを証明するのが困難であるとき、その対偶notB → notAを証明するほうが簡単である場合がある。これを対偶論法という。数学ではしばしばこの対偶論法が利用される。


この対偶論法であるが、日常語では必ずしも成り立たないようだ。例えば、「平家でなければ人ではない」の命題は「人であるならば平家である」となり、両者の意味は異なる。


ここで、以下の3つの命題について考えてみよう。


命題1:広告費が上がれば、売上が上がる
命題2:ファストフード店が増加すれば、青少年の犯罪率が増加する
命題3:労働時間が長くなれば、新生児出生率が低下する


(続く)