ルーチンワークの向こう側

最近、新しい迅速検査機器導入に向けて奔走している。ほぼ毎週、セミナーに参加したり、業者さんを訪ねたりする日々が続いている。

最近、とても充実している。その心境を語ってみたい。


■公定法について

僕が担当している微生物検査に限らず、検査・分析に関して国に定められた「公定法」というものが存在する。微生物検査を例に挙げると、食品中にサルモネラ大腸菌O157といった食中毒菌がいるとマズイので、検査して「陰性」であることを確認しなければならない。しかし、所詮微生物検査は確率論であるから、たまたま検査した箇所が陰性であっただけで、他に部分汚染されている可能性が常に残る。だから、世界的に運用されている誰もが認めるような検査法で検査したが結果は陰性でした、という報告がなされなければならない。どっかの誰かが開発したような検査法で「大腸菌O157は陰性でした」なんて言っても誰も認めてはくれない。


誰もが認める検査法とは、国内では「公定法」にあたる。これは食品衛生法に記載されている方法や、省令・通知等に載っている方法である。国内における検査は、この公定法に準拠する必要がある。


しかし、この公定法には昭和初期に出された通知等がまだ現役で生きていたりすることが多く、古いものが多い。そこで、海外で運用されている方法にも注目しておく必要がある。



■海外の試験法

最近勉強しているところなのであまり詳しくはないが、ヨーロッパは主にISO法、アメリカはAOAC法に準拠しているようだ。ISO、AOACといった非政府系独立第三者機関はかなり厳密に試験法の妥当性確認を行っているので、ここで認められた試験法は準公定法的な意味合いを持っている。


アメリカの場合、FDAアメリカ食品医薬品局:日本の厚生労働省のようなもの)が定めるFDA/BAM法というものがあるが、どうやらこれにはAOACで妥当性確認された試験法が採用されているようである(ここは間違っているかもしれない。もうちょっと調べてみます)。アメリカではこのFDA/BAM法が公定法にあたり、法的拘束力を持つ。


ヨーロッパには、CEN(欧州標準化委員会)があり、ここが妥当性確認した試験法が採用されているようだ。CENはISOとかなり強い結びつきがあり、ISO/CEN法といった相互乗り入れの流れが出てきているらしい。



■迅速検査法の導入

さて、ここからが本番。最近、僕が奔走している迅速検査法について。


これまで述べてきたように、公定法は誰もが認める検査法で、法的拘束力を持つ。しかし、国内の公定法に記載されている検査法は古いものが多く、時代の流れと必ずしも一致しないものがある。
一番の問題は検査に必要な期間が長いことである。工場出荷検査や、苦情品検査などでは一日も早く検査結果が必要とされる。


公定法が出来た当時にはなかった、遺伝子を利用した検査法や免疫学的検査法などの検査キット、またそれらを自動化した検査機器が市販されている。これらの多くはAOACのような機関で検査の妥当性を確認してもらっている。これらのキットや機器は公定法にくらべて、かなり短い期間で検査できるものが多い(例えば、サルモネラ4日→2日、大腸菌O157 3日→1日など)。


公定法には記載されていない検査キットや検査機器を使う場合には、AOAC、CEN、ISOのような公的な機関により、検査の妥当性が確認されているかどうかが非常に重要なポイントとなる。


妥当性がとれていることを確認したら、次は導入である。
市販されているキット・機器は非常に多くの種類がある。多くは手間を省いたり、検査期間を短くするものだが、やはりそれぞれ特徴がある。導入にあたって、自分が働く試験所でどう運用していきたいかを明確にしておかなれけばならない。


・どのサンプルを検査するのか
・どの検査項目を迅速化したいのか
・一度に何検体まで検査できるのか
・将来、工場品質管理室に展開するのか


等々のヴィジョンを踏まえ、選定する。



■最後に

入社後一貫して微生物検査を担当してきた。当初、検査・分析の仕事は公定法のように決まりきった方法で検査しなければならず、仕事の価値が見出せない時期があった。なにか新しい価値を見出すわけでもなく、毎日が同じ作業の大量の繰り返しであることにうんざりしていた。


しかし、ひたすら繰り返すうちに、検査法の中に、矛盾や時代の流れにそぐわないものがあることがだんだんと分かってきた。うちの会社はほぼ国内市場だけをターゲットにしているから、これまで海外の試験法については、あまり気にしなくてもよかった。しかし、今会社は転換期に来ているように思う。社長が将来は海外マーケットも開拓していくと言っているし、実際最近海外向けに出しているサンプルで試験法が異なるため、一悶着あったところだ。


迅速検査法の導入や、海外での試験法がどうなっているのかを押さえておくことはこれからますます重要になってくるだろう。今まさに僕が取り組みたいのはこの点である。これについて、課長を巻き込んで、グループのみんなにヴィジョンをプレゼンし、新しい取り組みに向けて動きだそうとしている。
ひたすら愚直に微生物検査だけに取り組んできたからこそ、何が問題で、何が必要とされているのかが分かる。


今や僕は社内でもっとも微生物検査を理解している人間の一人だ。検査・分析の仕事は、新しい価値を発見したり、創造したりする研究とは趣が違う。僕らがやるべきことは適切な方法の導入とその運用である。そこに必要なのはリーダーシップや交渉力であり、それこそが僕がもっとも力の発揮できることでないかと思う。