数学者の言葉では

藤原正彦氏のエッセイ「数学者の言葉では」の中に、学問に挫折する大学院生の話がある。著者の教え子で、競争の激しいアメリカの大学院にも係わらず奨学生として学ぶほどの優秀な学生が、だんだんと精神的に不安定になっていく様子が描かれていた。


学問を志そうとする人には、人間らしい情緒を捨て、人生の全てを学問に捧げる一時期が必要であると著者は言っている。

しかし、学問を修めようと本気で考えた人ならば、自分の才能への不安、また自分の研究が果たして世の中のためになるのかという疑問には、誰もが身に覚えがあると思う。それは一流の科学者であっても例外ではない。

著者自身もその教え子のように精神的に不安定になった時期があったようだ。しかし、それを乗り越えてはじめて「不安を上手くかわしながら付き合っていく」術を身に付けられるという。


著者は学問に生きるには、「楽観的」でなければ ならないという。しかしここでいう楽観的とはただのおバカさんのことではない。ある時期の人生の全てを学問に捧げ、ぎりぎりの果てに行きついた「楽観的」のことである。これほど重い楽観的を僕はこれまで知らない。

ある数学者はどんなに難しい問題に出会っても、まず「これは簡単だ」とつぶやいてみるそうだ。はじめから難しいと思ってしまうと、本当は簡単に解ける問題であっても、心が解こうとする気持ちを放棄してしまうらしい。


心に渦巻く不安を上手にかわす技術。とても参考になった。
この本を読んで少しアメリカの大学院に挑戦してみたい気持ちが生まれた。